その158 女の位相

 「その154」では、世界経済フォーラム(WEF)の「世界男女格差報告書」で日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位、G7の中で最下位という結果を受け、ほかの調査と対比させながら日本の「男女格差」について考えました。

 さらに「その155」では、天照大神から卑弥呼、そして紫式部、清少納言を挙げて古代から世界に突出したわが国の女性の活躍ぶりをふり返るとともに、天照大神の神話と神剣・天叢雲剣(草薙剣)につなげました。

その158 女の位相

 さて今回は、われわれが知らない明治以前の日本女性の実体を見つめて参りたいと思いますが、はたして日本の女性は、昔からの言い伝えのように差別や抑圧を受けていたのでしょうか。
 今までたびたび渡辺京二著『逝きし世の面影』を引用してきました。本書は、幕末・明治期の異邦人の訪日記を網羅した記録誌ですが、今回の表題「女の位相」も同書「第九章 女の位相」から抜粋させていただきます。

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 …日本女性の地位は高いと感じた観察者は少なくない。たとえばグリフィスはその一人である。
「アジア的生活の研究者は、日本に来ると、他の国に比べて日本の女性の地位に大いに満足する。ここでは女性が、東洋の他の国で観察される地位よりもずっと尊敬と思いやりで遇せられているのがわかる。日本の女性はより大きな自由を許されていて、そのためより多くの尊厳と自信を持っている」
「女性が纏足(てんそく)されることはないし、中・下層階級の女性もアメリカなみにほとんど自由に出歩ける」
♢ グリフィス(Wiliam Elliot Griffis 1843~1928)
『明治日本体験記』(平凡社東洋文庫 1984年)アメリカの教育者、日本学者

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 カッテンディーケも同意見で、
「日本では婦人は、ほかの東洋諸国とは違って、一般に非常に丁寧に扱われ、女性の当然受くるべき名誉を与えられている」
「もっとも彼女らはヨーロッパの婦人のように出しゃばることはなく、男よりへり下った立場に甘んじているが、だといって、婦人は決して軽蔑されているのではない」
と述べている。
♢ カッテンディーケ(Huijssen van Kattendijke 1816~66)
『長崎海軍伝習所の日々』(平凡社東洋文庫 1964年) オランダの海軍軍人、長崎海軍伝習所の教育隊長

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 オリファントも、
「おそらく東洋で女性にこれほど多くの自由と大きな社会的享楽とが与えられている国はない」
と言ってる。
♢ オリファント(Laurence Oliphant 1829~88)
『エルギン卿遣日使節録』(雄松堂出版 1968年)日英修好通商条約を締結するために対日したエルギン卿使節団の一員

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 オイレンブルクは、
「日本の婦人の高い地位を示すもっともよいものは、彼女たちのもつ闊達な自由であり、それによって働き、また男性の仕事にまで加わることができるだろう」
「これは東洋のほかの国々ではないことである。彼女たちの振舞はしとやかで控え目であるが、同時に天真爛漫でとらわれることなく、この点は平等の権利のあるものにおいてのみ見出されるものであろう」
と述べている。
♢ オイレンブルク(Friedrich Albrecht Graf zu Eulenburg 1815~81)
『日本遠征記』上・下(雄松堂出版 1969年)、『第一回独逸遣日使節日本滞在記』(日独文化協会1940年)プロイセン王国の外交官、政治家。

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 チェンバレンは、
「下層階級においては、中流階級や上流階級におけるほど女性の服従が実行されたことはない」
「農民の婦人や、職人や小商人の妻たちは、この国の貴婦人たちより多くの自由と比較的高い地位をもっている。下層階級では妻は夫と労働を共にするのみならず、夫の相談にもあずかる。妻が夫より利口な場合には、一家の財布を握り、一家を牛耳るのは彼女である」
と認めている。
♢ チェンバレン(Basil Hall Chamberlain 1850~1935)
『日本事物誌』1・2(平凡社東洋文庫 1969年)、『明治旅行案内』(新人物往来社 1988年)明治期のジャパノロジスト、イギリスの言語学者

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 ウィリアムズの見るところでも、
「1854年の下田では、女たちが商売に関して発言力をもっているのがうかがえた」
「女たちが商売の切り盛りになんとえらい働きをしているかを見て、驚かされた」
「うすのろ亭主が、われわれが買おうと思っている品物の値段について、女房の考えを聞かざるを得なかったことから、がみがみ女房といっしょになって、亭主をからかい、面白がって騒いでいる大勢の連中を店先で見たことがある」
と言っている。
♢ ウィリアムズ(Williams, Samuel Wells 1812~1884)
『ペリー日本遠征随行記』(雄松堂出版 1970年)アメリカの宣教師、ペリー艦隊の通訳

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 ウイリアム・ディクソンの見るところも同じだ、
「こういった店の多くは女、つまり店主の妻によって切り廻されていいる。この細君たちはきわめてビジネスライクなのがしばしばだ。場合によっては、イージーゴーイングな亭主よりはるかにそうなのだ」
と述べている。
♢ ウイリアム・ディクソン(William Gray Dixon 1854~1928)
イギリス人で工部大学院の教師

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 ブスケは農村の女について、
「その仕事はヨーロッパの田舎の婦人の仕事とおなじで、その意見はあらゆることに採りいれられている」
と言う。
♢ ブスケ(Georges Hilaire Bousquet 1846~1937)
『日本見聞記』1・2(みすず書房 1977年)司法省顧問として在日したフランス人

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 ウェストンは、
「日本の農村の生活で最も重要な特徴として目につくのは、婦人が非常に重要な役割を演じていることであり、これらの有能で金のかからない働き手は、より保守的な上流階級の婦人たちが通常置かれている状態に比べれば、はるかに多くの自由を楽しみ、それ相応の考慮を払われている。農家の主婦は夫と労働を共にするだけでなく、その相談相手にもなる。主婦が一家の財布を預かり、実際に支配することが多い」
と記している。
♢ ウェストン(Walter Weston 1861~1940)
『ウェストンの明治見聞記』(新人物往来社 1987年)、イギリスの登山家、日本における近代登山の開拓者

 どうですか。昔の日本人女性の実体と、われわれが言い伝えられてることの違いに驚かれたと思います。
つづく

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