その136 日本剣道形の理法を竹刀剣道に活かす

 日本剣道形は、まず、全剣連の『日本剣道形解説書』また『剣道講習会資料』に記述してある内容を一字一句違うことなく践み行うことが求められます。
 同書には、打太刀は「師の位」、仕太刀は「弟子の位」と規定されており、師と弟子の関係を理解し、原則として仕太刀は打太刀に従って始動することとなっています。
 日本剣道形を修錬することにより、打突の原形や機会を自得し、理法と技能を体得するものであります。

 この日本剣道形は、打太刀が仕太刀に打つ機会を教えるために、機を見て技を仕掛けます。それを仕太刀は、よしきた、と「抜き」「すり上げ」または「返し」などの技で応じます。
 打太刀と仕太刀の呼吸がピッタリ合い、緩急強弱を心得た、間拍子よく発気揚々と演じられる日本剣道形には魅了される剣の世界があります。

 しかし打太刀「師の位」、仕太刀「弟子の位」の気組みで立ち向かう日本剣道形は、あくまで〝行ずる〟あるいは〝演ずる〟形であります。

形と勝負は立場が逆転
 この日本剣道形の立会を〝真剣勝負の観点でみる〟ならば、「師の位」であるはずの〝打太刀が敗者〟となり、「弟子の位」である〝仕太刀が勝者〟となる、立場が逆転することに心しなければなりません。

 『日本剣道形解説書』14ページに「大日本帝国剣道形」(原本)の[説明](下記)が載っています。

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説明
第一本 相上段ハ先ノ気位ニテ互ニ進ミ先々ノ先ヲ以テ仕太刀勝ツノ意ナリ
第二本 相中段ハ互ニ先ノ気位ニテ進ミ仕太刀先々ノ先ニテ勝ツノ意ナリ
第三本 相下段ハ互ニ先ノ気位ニテ進ミ仕太刀先々ノ先ニテ勝ツノ意ナリ
第四本 陰陽ノ構ニテ互ニ進ミ仕太刀後ノ先ニテ勝ツノ意ナリ
第五本 上段晴眼互ニ先ノ気位ニテ進ミ仕太刀先々ノ先ニテ勝ツノ意ナリ
第六本 晴眼下段互ニ先ノ気位ニテ進ミ仕太刀後ノ先ニテ勝ツノ意ナリ
第七本 相晴眼ニテ互ニ先ノ気位ニテ進ミ仕太刀後ノ先ニテ勝ツノ意ナリ
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 このように一本目(原本では「第一本」、以下同じ。)から七本目まで、すべて仕太刀「勝ツノ意ナリ」と、仕太刀が勝つ理(ことわり)を示しています。
 ですから、この日本剣道形の[説明]を実際の竹刀剣道で活かそうとするならば、打太刀ではなく〝仕太刀の側に我が身を置く〟ことが必要となります。

 [説明]では、一本目、二本目、三本目、五本目は「先々ノ先」にて仕太刀が勝つ、四本目、六本目、七本目は「後ノ先」にて仕太刀が勝つとなっています。
 この[説明]の記述を頼りに「先々ノ先」と「後ノ先」についての理を考えてみましょう。

「先々ノ先」の理
 「先々ノ先」で仕太刀が勝つ一本目、二本目、三本目、五本目は、打太刀が一触即発の間合から直截的(ちょくせつてき)に打突します。
 形では打太刀が仕太刀に打つ機会を教えるために先に技を出すのですが、実際の真剣勝負の場面では、敗者側(打太刀)が勝者側(仕太刀)の強い攻めを受け、耐えきれなくなって、触発されたかたちで技を出してしまう場面です。
 これを勝者側(仕太刀)は「抜き」(一本目、二本目)、「萎やし」(三本目)あるいは「すり上げ」(五本目)て応じ技で返します。
 敗者側(打太刀)は先に技を出すが、触発されてのことなので、勝者側(仕太刀)がその先を取る、つまり「先々ノ先」での勝ちといえましょう。

「後ノ先」の理
 一方「後ノ先」にて仕太刀が勝つ四本目、六本目、七本目は、間合に接したとき、まず一齣(ひとくさり)あります。
 つまり四本目は「相打ち、切り結び」、六本目は「引きながらの上段の構えに対する間詰め」、七本目は「気あたり相突き」それぞれの動作が前もってあり、その後、打太刀の打突に対して、仕太刀が「巻き返して正面を」(四本目)、「すり上げて右小手を」(六本目)、「ひらいて右胴を」(七本目)打つという動作に移ります。
 これも仕太刀(勝者側)が心気、身の懸りともに勝っており、打太刀(敗者側)が技を出さざるを得ない状態に追い込み、それを迎え打つ、即ち「後ノ先」での勝ちとなります。

剣道理念の体現
 この[説明]が示す「先々ノ先」「後ノ先」を体現すること、即ち「理に適った剣道」と言えるのではないでしょうか。
 日本剣道形と竹刀剣道とは打突の動作に違いはありますが、日本剣道形で仕太刀が打太刀に仕向ける先の気位から、間と気が合致した身心の応答を、ぜひ竹刀剣道で体現したいものです。
 この理に適った剣道を目指す稽古こそ『剣道の理念』が謳う「剣の理法の修錬」であり「人間形成」につながる「道」であると考えるものです。
 表題に掲げた 
― 日本剣道形の理法を竹刀剣道に活かす ―
 皆さん、もう一つ高みを求めた稽古を日頃から心懸けようではありませんか。
つづく
頓真

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