その138 近況報告

 いよいよ大型審査のシーズンが近づいて参りました。
 時宜を得て、段位審査の事についてしたためようと思いましたが、審査については過去の剣談に幾度か記しておりますので、段位審査を受けられる方は下欄の「審査関連剣談」各編をお読みのうえ審査に臨んでください。

 ただし5編もありますので、一気に読もうとせず、何か悩みが生じたとき、1遍づつ咀嚼するように吟味ください。きっと日ごろの稽古の方向性を示唆する発見があるはずです。

 最近、腰を痛めしばらく稽古を休んでおりましたが、先日、日暮里の「誠道塾」(今津久雄 塾長)の定例稽古会に出席しました。約3週間ぶりの稽古です。
 休止中は、稽古再開に向け、身体、特に腰に負担をかけない稽古方法を模索しつつ過ごした3週間でした。

 この稽古休止中、久しぶりに『五輪書』に目を通しました。
 『五輪書』はご存じのとおり宮本武蔵が最晩年62歳の時に書き上げた兵法書です。私は若い頃から秘かに「座右の書」としていました。
 武蔵の寿命をはるかに越えた今(77歳)も、『五輪書』は新鮮なひらめきを与えてくれます。

 武蔵が生きた時代の剣術と現代の剣道とは技法に大きく違いがあることは否めません。
 しかし、根幹である「身」「心」「刀」の理法において、どこか通底する法則があると考えます。

 さて、この腰痛は一過性のものか、それとも老化による慢性的な症状となるのか不安な毎日を過ごしました。
 そんな呻吟する日々、ふと〔水之巻〕「足づかひの事」が目に飛び込んできました。

 「足の運びやうの事、つまさきを少しうけてきびすをつよく踏むべし。足づかいは、ことによりて大小・遅速ありとも、常にあゆむがごとし。足に飛足、浮足、ふみすゆる足とて其三つ、きらふ足也」

 爪先を浮かせ、踵(きびす)を強く踏む… 
 一般にいう足づかいの反対を教えています。また「常にあゆむがごとし」と歩み足を平常としています。
 おそらく若年の剣士であれば、この部分は理解しがたく、読み飛ばすことでしょう。
 しかし老生となれば、「逆もまた真なり」を受け入れる遊び心も育まれ、何とか老化を乗り越える、理に適った動きを身につけたいとの願望が我が身を既成の枠外に連れ出します。

 実は私、30歳代前半に、左足のアキレス腱を痛めたとき、この足づかいを試みたことがあります。踏み切り、踏み込み動作ができない、という条件下で身につけた、「爪先を浮かせ、踵を強く踏む」の技法は、一応の治験的効果を得た経験値を持っています。

 さて、この工夫の効果を試した「誠道塾」の定例稽古会、終わった後、特段の痛みもなく、おそらくこの腰痛は一過性のものであったと思うことといたします。
 さて、第二道場に移り宴もたけなわになった頃、ある剣友が私の今日の稽古を「古流のような」と評しました。
 きっと「悪い癖がついた」と言いたいところを忖度し、「古流のような」と言い換えられたのでしょう。

 若いときであったら即座に、「悪癖を正さなければ」の衝動にかられるところでしょう。が、このときは「古流のような」の言辞を額面通りに受け取る自分がいました。
 この心理ははっきりしませんが、きっと自己の身体のつかい方に、ある古流への通性を感じ取ったからだと思います。

 これまで私は「兵法の利にまかせて、諸芸・諸能の道となせば、万事におゐて、我に師匠なし」(地之巻)を信条に、何とかここまでやってきました。
 武蔵は、この前段で「其後なをもふかき道理を得んと、朝鍛夕錬してみれば、をのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比(ころ)也。其より以来は、尋ね入るべき道なくして、光陰を送る」と記しています。

 井蛙子が、自ずから剣の道に逢えるのは、80歳ころでしょうか…
 「尋ね入るべき道なくして、光陰を送る」の極みに達することを願いつつ、無理なく精進を傾ける所存であります。
 つづく

審査関連剣談
その七「審査について②」(平成23年6月30日)
https://shinjukukendo.com/kendotheory/%e3%81%9d%e3%81%ae%ef%bc%97%e3%80%80%e5%af%a9%e6%9f%bb%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e2%91%a1/

その八十一「審査の眼について」(平成27年9月23日)
https://shinjukukendo.com/kendotheory/%e3%81%9d%e3%81%ae81%e3%80%80%e5%af%a9%e6%9f%bb%e3%81%ae%e7%9c%bc%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/

号外「段位審査を受けられる方々へ」(平成28年2月8日) 
https://shinjukukendo.com/kendotheory/%e5%8f%b7%e5%a4%96%e3%80%80%e6%ae%b5%e4%bd%8d%e5%af%a9%e6%9f%bb%e3%82%92%e5%8f%97%e3%81%91%e3%82%89%e3%82%8c%e3%82%8b%e6%96%b9%e3%80%85%e3%81%b8%e3%80%80/

その133「昇段審査を受審される方々に」(令和4年4月11日)
https://shinjukukendo.com/kendotheory/%e3%81%9d%e3%81%ae133%e3%80%80%e6%98%87%e6%ae%b5%e5%af%a9%e6%9f%bb%e3%82%92%e5%8f%97%e5%af%a9%e3%81%95%e3%82%8c%e3%82%8b%e6%96%b9%e3%80%85%e3%81%ab/

号外「段位審査に向けて」(令和4年12月7日)
https://shinjukukendo.com/kendotheory/%e5%8f%b7%e5%a4%96%e3%80%80%e6%ae%b5%e4%bd%8d%e5%af%a9%e6%9f%bb%e3%81%ab%e5%90%91%e3%81%91%e3%81%a6/

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