前回の夏季剣道講習メモ「剣道とオリンピック」の中で、剣道は、その特性からしてオリンピック競技には不向きであると述べました。
以下続けます。
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もしどうしてもオリンピックに出たいと考える人は、フェンシングに転向すればよい。剣道の有段者がフェンシングをやるならば、普通の人よりもオリンピック選手への道は近いかも知れない。
ここで、あえてフェンシング転向という話を持ち出すのは、現況下においては剣道側がいくら働きかけても、IOCがフェンシングの他に剣技系スポーツを新たにオリンピック種目に入れる可能性はないと考えるから。
まして競技種目を減らそうとする方向にある中で…。
フェンシングへの転向ではないが、実際に昭和39年(1964年)の東京オリンピックのときは、国内のフェンシング愛好者が少なく、選手強化のため若手剣士が駆り出されたほど。
現在もフェンシングの競技人口は非常に少なく、国内で5,000人ほどと言われている。
競技人口といえば、同じオリンピック種目である「柔道」が思いのほか少ない。
日本の柔道人口は17万人弱と言われている。一方、剣道人口は実にその10倍近い*162万人いる。
意外と思われるだろうが、昔から剣道の方が多かったのは事実。ただ柔道はオリンピック種目であるゆえ、マスコミを賑わしいる関係でメジャーに映るのは致し方がない。
ではなぜ柔道人口は少ないのか。
それはケガが多く、危険視されているからである。
当連盟所属で全剣連の医・科学委員会委員である朝日茂樹先生は、新宿剣連HP「新着情報」(7月29日付)で、「学校体育、運動部活動におけるスポーツ事故防止全国会議(文部科学省スポーツ青少年局主催)」の議事内容を紹介しておられる。
小学校、中学校、高校における平成10-23年の死亡・高度障害発生が多く見られる競技は、柔道54、ラグビー25、水泳21、体操20などであり、剣道では重篤事故の発生は見られていない。低学年では保健体育授業中の突然死、高学年ではクラブ活動中の障害事故が多発していた。
昨年から、中学校教育で武道が必修化された。できるだけ多くの学校で剣道を選択してほしいと願うものである。が、世の中では剣道の教育的価値を認めつつも、剣道を教えられる体育教員が著しく不足している現状下にある。
そこでいきおい柔道を選択する学校が多くなり、現在約7割の学校が柔道を選択している。
その理由は、剣道は難しくて教えられないが、柔道なら見よう見まねで教えることができるだろう、との理由である、と。
前掲書によると、
中学校教育に武道導入以後事故の発生率は 柔道4583件、剣道220件、相撲130件。特に柔道における頭頚部外傷に対する注意喚起があった。慈恵医大脳外科医、大橋医師からは、脳震盪についての最新知見が披露され、これまで比較的軽く見られていた脳震盪にも僅かな急性硬膜下血腫を伴っているものなどもあり、診断の要点、最新の脳震盪診断法SCAT3(Sport Concussion Assessment Tool ver3)が紹介された。
これらを見ると柔道の事故が断トツである。これはなぜか?
また、柔道によるケガは宿命的なものなのか——。
一方、世界で柔道人口の一番多い国はフランスである。フランスの柔道登録者数は約58万人とのこと。フランスの人口は日本の約半分であるであるから、人口率でいうと日本の7倍という計算になる。しかも、その八割が18歳以下のジュニアであるという。
また、フランス柔道は安全対策も万全にほどこされ、教育の場において、近年一人の死亡者も出していないとのことである。
これはどういうことなのか。
日本の柔道は、心のどこかに伝統柔術からの「けがは付きもの」という考え方から脱しきれず、安全対策を疎かにしてきたことの結果ではないか。
また、それだけでなくフランスでは、柔道が教育的価値の高いスポーツとして認知され、柔道の修錬を通じて体得するものとして「礼儀」「勇気」「誠実」「名誉」「謙虚」「尊敬」「自己管理」「友情」をあげている。
なんと、この大部分は、我が国が武道必修化で掲げる教育の徳目ではないか。
フランスに学ぶべし。
つづく
* 2011年(平成23年)3月末日現在の「剣道」有段者登録数は、1,619,859人(内、女子は460,624人)[全剣連ホームページより]