この夏、仙台市で行われた剣道七段・六段審査の審査員を務めました。
六段・七段の実技審査員の年齢資格は70歳までとなっていますので、小生もそろそろ卒業の歳にさしかかりました。
このたびの審査は5つの審査場で行われたので 30人の審査員が招集されましたが、なんと、この秋に69歳を迎える自分が最年長でありました。驚きと同時に感慨深いものが胸にせまり、いつもにも増して心をこめ審査に当たったしだいです。
今回、第1審査場の主任を務めさせていただきましたが、ご存じのように第1審査場は七段・六段ともに一番年齢の若い方々が受審します。
とくに朝一番の何組かは、それぞれの受審段に相応しいと想定されるよりも、はるかに技の応酬が活発で、まるで全日本選手権大会から抜け出てきたようなパワフルな立合が繰り広げられます。
われわれ審査員は、*『剣道称号・段位審査実施要領』(「段位審査の方法」)の審査の着眼点に照らし審査に当たるわけですが、とりわけ第1審査場の審査員となった場合は、まず、この若手受審者のパワフルな立ち回りに戸惑わされます。
さすが彼らは、これまで各段位とも第一選抜で合格してきているだけあって、五段以下の着眼点に関しては見事なほど高い完成度が見受けられます。しかし、六段以上の高段位に求められる理合や風格・品位については、些かのもの足らなさは否めません。
そんな立合を見て当初は、「攻めがない」「打ち過ぎ」「機をとらえていない」などと否定的な見方に支配されそうになります。
それならば、いずれも「否」とするのか…!
いや、この中のAかB、CそれともDか、と、「合」「否」が錯綜します。また一方で、若かりしころの自分の立ち合う光景が脳裡をかすめたりもします。
そうして、審査の眼に100パーセント応えていないとしても、70点あるいは60点で及第する他の試験などにも考慮を巡らせながら、葛藤の末に「合」「否」、いずれかに決着をつけるわけです。
六段なら28・29歳、七段なら35・36歳ですが、この年齢はまだまだ全日本選手権大会に出場している年代でもあります。こういう十二分に身体が利く人たちが発現しうる理合、風格・品位は何かと考えたとき、いささか勝負に奔(はし)るきらいがあったとしても、総合的な観点をもって「合」の判断に至る場合が多いのです。いわば「理外の理」と言えましょうか。
はたして、またも彼らの多くは第一選抜で七段・六段位に列せられることになるのです。
さて、ここで皆さん方に申し上げたいことは、決してこの種の立合を模範にしてはいけないということです。皆さん方があの立合ぶりを模範とするならば、永遠に合格することはない、といっても過言ではないでしょう。
それよりも地道に審査の着眼点を践んで修業される方が合格への近道であると断言いたします。
そのはず、最優秀とされる彼らが、あれだけ一心不乱に立ち合った結果、その場のでき映えを喩えでいうならば60~70点にしか過ぎないのですから。
年齢的にも体力的にもそのかかりにない皆さん方が真似ようとするところに無理があると申し上げます。
もし、どうしても合格したい、との願望をお持ちであれば、むしろこの第一選抜グループの対極に位置する、高齢の合格者を模範とすることをお勧めします。
野本京子さんが七段合格!
その模範とすべきは、皆さんもよくご存じの元新宿剣連の会員で現在青梅市在住の野本京子さんです。
野本さんは、このたび仙台の七段審査で、みごと合格されました。なんと78歳での合格です。
野本さんは、ご主人の一雄さんとオシドリ剣士として知られております。このご夫婦は、道場の内外を問わず常に互いが師となり弟子となり、あるときはクラスメートのようにアドバイスし合う、仲睦まじく、今も初々しい間柄にあります。
また、野本夫婦の稽古ぶりは、あくまで〝基本に忠実〟をモットーに、まさに、審査の着眼点を押し頂いて、と言ってよいでしょう。
一雄さんはすでに教士七段の位にあり、あとは京子さんの七段合格がご夫婦にとって最大の目標でありました。
技倆の方も「あと少し」と評する一方で、年齢とともにだんだん合格圏から遠ざかっていくようにも感じられる昨今でありました。
加えて、近年になり数々の病に身を苛まれ、幾度も稽古の中断を余儀なくされる状態でした。
そこで一雄さんは、再び稽古を始めた京子さんに、一心のご助力を捧げられたのです。一雄さんは、京子さんの稽古にどこへでも付き随い、肩を貸し手を差し延べ支えてこられました。たとえば京子さんが防具を担ぐのが大変なときは、自分の稽古を犠牲にして京子さんのを担いで行ってあげる、ということも耳にしました。
これぞ、婦唱夫随。そしてこのたび、「一心岩をも通す」の諺どおり、みごと夫婦で悲願を達成されたのです。
京子さんの審査の内容は知りませんが、きっと着眼点を満たす立合であったものと推察いたします。
冒頭/69歳・審査員の最年長/と申しましたが、同じ審査会で小生より10歳近く年長の野本京子さんが粛然と受審し、みごと合格されたことに改めて敬意を表するとともに、長老ぶっていた自分を深く恥じ入ったしだいです。
くしくも小生、『剣窓』10月号に宮城七段・六段審査の寸評をしたためることとなりました。今回は、審査合格のポイントである「審査の着眼点」を中心に書き進めました。『剣窓』を購読しておられない方のためにここに掲載いたします。
また、今年も秋の大型審査が近づいて参りました。新宿剣連からできるだけ多くの方が合格されますことをお祈りいたします。
つづく
平成27年9月22日
剣道七・六段審査(実技)寸評
真砂 威
このたび不合格となられた方、またこれから審査を受けられる皆様方には、今一度『剣道称号・段位審査実施要領』(「段位審査の方法」)に記された審査の着眼点をご覧ください。これこそが受審者と審査員の共通項であり接点であります。
最近の審査の傾向として、「正しい着装と礼法」と「適正な姿勢」については、申し分のない方が多いように見受けられます。
一方、「基本に則した打突」においてはさまざまな難点が目につきます。ぜひ、根本的に日ごろの稽古から見直していただきたいものです。
その着眼点で、ただ一つネックとなっているのが「勝負の歩合」です。
この、勝負の歩合を重視し過ぎると、いきおい形振(なりふ)り構わぬ遣(や)り取りに陥ってしまうからです。
日ごろ負けん気の勝負稽古に終始している人が、審査の時だけ〝基本に則し…〟と、取り繕っても、いかんせん付焼刃、かえって動作にぎくしゃく感が生じ、審査員には「錬熟度」に欠ける、と映るものです。
そんな情況下で、力みだって放たれた面技など上体が不安定で、しかも打ち抜けが冗長とくれば、これまた「鍛錬度」が低いと評されて然るべしであります。
もちろん、勝負の歩合も大事な着眼点の一つではありますが、敢えて着眼点の最後尾に掲げてある意味合いを斟酌していただきたい、と願うものです。
さらに六段以上には、「理合」「風格・品位」といった、曰(いわ)く言いがたし、高度な要素が求められます。
間合を重視した攻め。一触即発の間、真際のタメ。機会を得た必然の有効打。そして、それらプロセスの再現性などです。
洗練された趣きや味わいも、こういった修錬を積み重ねることによって、自ずと身に備わってくるものと考えます。
以上、苦言を呈し寸評にかえさせていただきます。
(『剣窓』平成27年10月号より)
*『剣道称号・段位審査実施要領』(「段位審査の方法」)
1. 五段以下の実技審査は、規則第15条に定める付与基準に基づくほか、特に下記の項目を着眼点として、当該段位相当の実力があるか否かを審査する。ただし、審査の方法は、地方代表団体の実情に応じて、それぞれが定める実施要領により行う。
(1) 初段から三段まで
① 正しい着装と礼法
② 適正な姿勢
③ 基本に則した打突
④ 充実した気勢
(2) 四段及び五段
初段から三段までの着眼点に下記の項目を加えたもの
① 応用技の錬熟度
② 鍛錬度
③ 勝負の歩合
2. 六段から八段までの実技審査は、初段から五段までの着眼点に加え、下記の項目について、更に高度な技倆を総合的に判断し、当該段位相当の実力があるか否かを審査する。
① 理合
② 風格・品位
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