第10回 みちしるべ 「二刀」について

 『剣窓』令和8年(2026)9月号

第10回 みちしるべ 「二刀」について

全日本剣道連盟

会長 真砂 威

 前回、第1回アジア・オセアニア剣道選手権大会(1AOKC)」の開催について記しました。その中で特筆すべきこととして、二刀の選手が多数出場したことに言及しました。

 わが国においても二刀をつかう剣士は存在しますし、二刀の八段受有者も複数名います。しかし、実際に大会等で二刀の剣士は珍しい存在であります。このたびのAOKCでは二刀の選手が12名(男子9名、女子3名)も出場しました。一つの大会で12名もの二刀の選手が出場すること自体に驚きを禁じ得ません。前回も申し上げましたが、これは今回かぎりのものなのか、今後も増え続けるものか、予断は許せません。

 二刀をつかう流派はたくさんありますが、一番著名なのは宮本武蔵の「二天一流」でしょう。武蔵の『五輪書』(渡辺一郎校注・岩波文庫)「地の巻 -此一流、二刀と名付くる事-」では、

 一流の道、初心のものにおゐて、太刀・刀両手に持ちて道を仕習ふ事、の所也。一命を捨つる時は、道具を残さず役に立てたきもの也。道具を役にたてず、こしに納めて死する事、にあるべからず。然れども、両手に物を持つ事、左右共に自由には叶ひがたし。太刀を片手にてとりならはせんため也。(略)両手にて太刀をかまゆる事、実の道にはあらず、(略)先づ片手にて太刀をふりならはせん為に、二刀として、太刀を片手にて振り覚ゆる道也。

と、武蔵の勝負における超合理主義的な技術論が展開されています。現代の二刀剣士も、このような思想を根底に修錬に励んでおられるものと拝察いたします。

 全剣連では二刀の手引書として、平成21年(2009)12月『剣道指導の手引き【二刀編】』を刊行いたしました。当時の武安義光会長は、同書「刊行に当たって」には、

 確かに二刀の剣道は特殊な面がありますが、剣術の歴史においていくつも流派があり、竹刀剣術が始まってから後も取り上げられて普及を見ています。(略)一方、二刀は試合に有利であるとして、剣道の基本も弁えない粗製乱造の選手を養成するなどの弊害が目だったことも事実であります。

 このような経過をたどって、戦後の剣道界では、二刀を修行する者が戦前より減っている状況にあります。しかし、しっかりした二刀剣士が現れることは、竹刀による剣道の内容の多様化と向上に役立つのであり、一部にあるようなこれを邪道視するような態度は取ってはならないと考えます。

と述べておられます。

 また同書「現代二刀」の項では、

 伝統的に行われてきた二刀剣道も、「剣道の理念」に基づく高い水準の剣道人育成による人づくりを目指すものであり「修錬や指導の心構え」についても諸手一刀のそれと何ら変わるものではない。

としています。

 更に「二刀の在り方」の項「理法の追求 -正しい『一本』-」では、

 二刀剣道にも理に適った竹刀操作法の修錬とその体系化を進め、「競技規則さえ守れば、何でもあり」に陥ることのないようにする必要に迫られている。いたずらに活動内容を規制しようとするものではなく、戦う相手の人格をなお尊重し正々堂々の手段で戦う倫理性の下、大小両竹刀の理法について在るべき姿を求め、弛まぬ修錬と正しい指導に活かそうとするものである。

 全剣連では、今もこの立場で二刀を位置づけております。しかし、指導態勢が整っていない剣道新興国・地域においては、ややもすれば基本が疎か(おろそか)になり〝粗製乱造〟の二刀剣士による〝何でもあり〟の剣法が跋扈(ばっこ)するではないかと懸念されるところです。今後、新興国・地域においても正しく基本の指導が及ぶよう十分な手立てを講じる必要があります。

「二刀流」に一言

 「二刀流」という言葉は現在、広く用いられるようになりました。例えば、野球の大谷翔平選手は投手と打者を兼ねることから「二刀流」として世界的に知られています。

 「二刀流」は単に刀を二本持つだけでなく、二つの能力を高いレベルで両立する、という意味でも使われる言葉になっており、二つの専門分野で活躍する人を指して「二刀流」と呼ぶようになりました。

 しかし、剣道においては二刀の剣士を「二刀流」と呼ぶことは禁物です。なぜならば古来から「二刀流」という流派は存在しないからです。『五輪書』においても「二天一流」あるいは「二刀一流」と称しておりますし、また武蔵は自らの二刀を「円明流」とも名乗っていました。ほかに神道夢想流、天真正伝香取神道流、鹿島新當流なども二刀の技法が伝承されていますが、これらいずれも自らの流派名を名乗っても「二刀流」とは称してはいません。

 巷間「二刀流」とよばれるの「流」は、決して流派を指すものではなく、二刀の「手法」とか「様式」といった意味合いかと思われます。

 よって、これからは「二刀流」という呼び名は剣道以外の種目にお任せすることといたしましょう。

一覧へ戻る